『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』1970年(新潮文庫 1982年)

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

ルネサンス期、初めてイタリア統一の野望をいだいた一人の若者―父である法王アレッサンドロ六世の教会勢力を背景に、弟妹を利用し、妻方の親族フランス王ルイ十二世の全面的援助を受け、自分の王国を創立しようとする。熟練した戦略家たちもかなわなかった彼の“優雅なる冷酷”とは。<毒を盛る男>として歴史に名を残したマキアヴェリズムの体現者、チェーザレ・ボルジアの生涯。

  • 登場人物が多いので最初がしんどかったが、読み進むうちに面白くなった。『ルネサンスの女たち』を先に読んでおいたのは正解
  • チェーザレ・ボルジアみたいな男の生き方に塩野先生が入れ込んだのは理解できる
  • 太宰治にドン・ミケロットについて短編小説を書いてほしいと思う。表舞台には出てこないが、チェーザレが信頼を置き、チェーザレにも最後まで忠実だったこの男。私はこういう影の頭脳タイプに興味がわきます
  • ニッコロ・マキアヴェリの『君主論』読んでみたくなった。マキアヴェリは傍観者タイプか
  • 沢木耕太郎の解説が、ちゃんと解説になっていて素晴らしい。

沢木耕太郎の的を射た解説
なぜ塩野先生がチェーザレ・ボルジアの生涯を書こうとしたのかというと

歴史の闇の奥に追い立てられ、不当な扱いを受けているチェーザレを、自らの手で救出するのだという物書きとしての野心

うん、プロの物書きのプライドってこういう風にあらわれるのですね。そして、塩野先生の文章については

背徳的といわれる行為をも、その自由さにおいて認める寛容さと、価値の鎖にしばられ自由を行使し得ない者へのあからさまな嫌悪、軽蔑

ぴったしかんかんですね。
■キーワード
塩野七生 チェーザレ・ボルジア

『ルネサンスの女たち』(中公文庫 1973年)

ルネサンスの女たち (中公文庫)

ルネサンスの女たち (中公文庫)

政治もまた偉大な芸術であったルネサンスのイタリアにおいては、女性たちも大胆に、あるいは不可避的に権力と関わり、熾烈な生涯を生き抜かなければならなかった。エステ家のイザベッラ、ボルジア家のルクレツィア、スフォルツァ家とコルネール家のカテリーナ―四人の魅力的な女性を横糸に、権謀術数の時代を縦糸にして織りなされる華麗な歴史物語。

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  • イザベッラ・デスデとカテリーナ・スフォルツァの話がおもしろい。気が強くて行動が伴っている
  • ルクレツィア・ボルジアとカテリーナ・コルネールには魅力を感じない。守られて慰められることに酔いしれるタイプだから
  • 読者に媚びていず、読者には大人しか対象にしていない態度が素晴らしい。「中途半端な感傷」を徹底して見下すところに筋が通っている。デビュー当時からこの調子だったんですね(w
■素敵な表現集
偽善は、それをしていることを自覚しない人間がやると、なんの役にも立たないどころか、鼻もちならないその臭気が、人々を毒する。しかし、それをしていることを十分に承知している人間の行う偽善は、有効であるとともに、かつ芸術的に美しい。
■キーワード 塩野七生

日本語訳『マクベス』(1969年)

マクベス (新潮文庫)

マクベス (新潮文庫)

http://www.sparknotes.com/shakespeare/macbeth/

  • 品行の優れたスコットランド王ダンカンを殺してしまう動機が薄っぺら。解説で書いてあることを仮に信じてみると、マクベスって薄ら馬鹿だったのか
  • マクベスよりも野心家であったような妻が死んでしまったときの、マクベスの淡白な反応に拍子抜けした
  • ハムレット』のほうが断然おもしろい。本作品では、登場人物、とりわけマクベスに感情移入できない
  • 魔女が男言葉でしゃべっているのが、いまひとつ謎

■素敵な表現集

ああ、女のように眼を泣きはらし、口さきだけで、大口たたけたら、どんなに気が楽か!

一見、現代の価値観からすると女性差別的発言とも受け取られかねないけど、これって真相を突いていると思う。自分のほうで失礼なこと言ったりしたりしておきながら、それを指摘されると「傷つきやすい私」という被害者になってヒステリー起こし、責任逃れする女性って多いっすよ
■原作
Macbeth (Penguin Popular Classics)
Macbeth ISBN:0140620796 (1ポンドと50ペンスの名作)
■キーワード
シェイクスピア 福田恆存

The Van (イギリス 1991年)

The Van

The Van

こんなくだらない小説、久しぶりに読んだ

  • 主人公の Jimmy Rabbitte Sr. は、大人数家族を抱えながらも無職の失業保険暮らしで、仕事をみつけて家計を助けようという気はミジンコのケツの穴ほどもないわりには、「一家の大黒柱」の顔だけはちゃっかりしたがる。家族の前で「この食事にありつけるのは誰のおかげなのかわかってんのか」とエラソーに言ったところ、息子の一人に「国のおかげ」と言われたら腹立ててやんの。真性なるウマ類
  • さらに Jimmy Sr. の親友 Bimbo も失業したら、「いっしょにぶらぶらできる仲間ができた」と喜び、Bimbo が退職金を元手に揚げ物屋を始めようと考えはじめると必死にそれを阻止しようとする。ついに商売にこぎつける段階になれば、自分はそのパートナーとして利益の半分を得て当たり前という態度を取るし、問題が起これば全部 Bimbo のせいにし、Bimbo から「お前の態度にはうんざりだ」と言われれば逆ギレして暴力を振るう。真性なるシカ類
  • しかも、タイトルの van が登場するまでが長く退屈
  • カバーの能書きによれば、本作品のテーマは a tender tale of male friendship だそうで。つまり、いい中年男がおこちゃまの精神力で、最後は「責任を持って行動することは馬鹿馬鹿しいので、ゴミの分別をしないのは当然なだけでなく、粗大ゴミだって勝手に海に投げて捨てて OK」という結論で決め。痛快
  • 職がないのも貧しいのも、もともとは自分の無責任な態度に原因がかなりあるのに、そこんところは都合よく無視し、「こんな不憫な状況にあってもユーモアで乗り切っていくオレ」と自分で自分を誉めてあげる態度。アイルランドが舞台の話って、必ずこのパターンだよね
  • テーマからして気に入らないし、大して文章や表現に工夫があるわけでも、構成にキレがあるわけでもなく、いったいこの作品のどこが賞賛に値するのか
  • 低予算B級映画の台本には最適
  • 英語は平易だが、アイルランドの事情に疎いと解説なしに読むのはしんどいかも
  • ダブリンの街の汚さと人のガラの悪さについての描写は本書にあるとおり
  • 本書を楽しく読むための秘訣は「田舎者は心が温かいなんて、まともに信じてどうするんですか」とか「イギリス人やアイルランド人は他人に対する思いやりがない自分の態度を棚に上げるときにユーモアがどーのこーのと言い出す癖がありませんか」とか「人には『ユーモア』と称して失礼なこと言ったりしたりしておきながら、自分が同じようなことされると逆ギレするのは頭が悪いからなのでしょうか」などと決して考えないことです

■日本語訳

ヴァン
ロディ・ドイル著・実川元子訳

『第4の神話』1999年(角川文庫 2002年)

第4の神話 (角川文庫)

第4の神話 (角川文庫)

  • 死んだ人気作家のモデルは森瑶子という噂
  • この人気作家のゴージャスぶりを示す根拠のひとつとして「ショートブレッドを焼き、紅茶を入れる私」というのがあるのが笑える
  • しかも、「本場仕込みのローストビーフ」だってさ(爆)ゲロが出るわ
  • 凡人が「結婚したために才能が生かせず空虚な生活を送っている苦悩」になんか、同情できるわけない
  • 「この女は要するに、馬鹿ですか(苦笑)」という思いで書いた評伝など、いくらそれが本当のことであったとしても、読む側としては後味が悪いという指摘は正しい
  • 角川文庫版の巻末にある「角川文庫ベストセラー」一覧には、この作品に出てきた人気作家が書きそうな、糞みたいな恋愛小説が並ぶ。恋愛話って、本人には大事件であることは大いに認めるけど、他人にとっては「だから何?」以上のものじゃないし、勝手に盛り上がって勝手に悲劇のヒロインになった話を聞かされてうんざりするし、その被害者意識を指摘すると逆ギレされそうで嫌だ
  • 「いい女になる方法」論の講師は馬鹿の極み。決まって「私はいい女」→「あなたも私の真似をしてみなさい(まあ、無理でしょうけど)」→「そしたら、あなたもいい女になれるでしょう」なんだよね。こういうことを文字にして出版して、恥ずかしいと思わない精神力が素晴らしい
  • 【愚理子のおまけ】男性講師による「いい女になる方法」論ではコメディーの要素が加わる。「ボクはいい男」→「ボクはこういう女が好み」→「キミもそういう女になってみなさい」→「そしたら、ボクもキミをいい女だと思うだろう(そしたらキミも嬉しいでしょ?)」馬鹿を通り越して、よ、幸せ者

Lolita (1997年)

Channel 4

  • Lolita 役の Dominique Swain は本当にかわいいし、それまで演劇の経験が全くなかったとは思えないほどの好演技。ただし、その後、歳を取ったらあまり美人ではなくなったみたい
  • Lolita の母親 Charlotte 役の Melanie Griffith は、相変わらずの不細工。あのクチビルを強調するような赤い口紅が恐ろしい。不細工なだけでなく頭も悪く、態度も子供っぽい馬鹿女を演じさせたら彼女の右に出るものなし
  • Lolita と肉体関係に陥る Humbert (Jeremy Irons)は、14歳のときに好きだった女の子が忘れられない男。昔のことにウジウジウジウジこだわるから、ろくなことがない
  • しかもこの男は、精神年齢もお子ちゃまのままだから、人に Thank you や Please を言うことを知らないし、人にぶつかっても Sorry と言うことを知らない。電話で話しているときだって自分の用件が済みさえすれば、相手が話している最中に平気で電話を切ってしまう何者何様キャラ。レストランに行って「すみません、水をいただけますか」と普通なら言うところ、いきなりウェイトレスをつかまえて「水」としか言わないタイプに違いない
  • 少女趣味を美化するような内容でなくてよかった。気に入った女の子と同居し続けるためにその母親と結婚し、母親が死んだら女の子とセックスしはじめた日には、その女の子が大人になっていくにしたがってこの事実がやっかいになり、ゆすられるというのは目に見えている
  • いざこざがあるとすぐにビンタをくらわし、そして暴力を振るったことに罪悪感を感じ、そこを相手につけいられて同じ事の繰り返し。お願いだから、こんなのに「愛」というキャプションをつけてくれるな

■他人様のレビュー

■映画の元になった小説
Vladimir Nabokov (1955) Lolita

Amazon.co.uk

■その日本語訳

ロリータ(新潮文庫)
ナボコフ〔著〕・大久保康雄訳

『蒲生邸事件』1996年(文春文庫 1999年)

蒲生邸事件

蒲生邸事件

  • 物語の語り手が大人の一歩手前で、筆者の言いたいことに従順すぎ、ものわかりよすぎ、作者の操り人形なのがあからさまという印象。そこんとこだけは、どうも気になってしまった
  • 物語そのものは構成がすっきりしていてよい
  • とくに、登場人物に完全無欠なヒーロー/ヒロインなどおらず、それぞれがその時代を必死に生きた様子には好感が持てる
  • 時間旅行者とチョー世界旅行者は別物

■キーワード
宮部みゆき 二・二六事件