The Van (イギリス 1991年)

The Van

The Van

こんなくだらない小説、久しぶりに読んだ

  • 主人公の Jimmy Rabbitte Sr. は、大人数家族を抱えながらも無職の失業保険暮らしで、仕事をみつけて家計を助けようという気はミジンコのケツの穴ほどもないわりには、「一家の大黒柱」の顔だけはちゃっかりしたがる。家族の前で「この食事にありつけるのは誰のおかげなのかわかってんのか」とエラソーに言ったところ、息子の一人に「国のおかげ」と言われたら腹立ててやんの。真性なるウマ類
  • さらに Jimmy Sr. の親友 Bimbo も失業したら、「いっしょにぶらぶらできる仲間ができた」と喜び、Bimbo が退職金を元手に揚げ物屋を始めようと考えはじめると必死にそれを阻止しようとする。ついに商売にこぎつける段階になれば、自分はそのパートナーとして利益の半分を得て当たり前という態度を取るし、問題が起これば全部 Bimbo のせいにし、Bimbo から「お前の態度にはうんざりだ」と言われれば逆ギレして暴力を振るう。真性なるシカ類
  • しかも、タイトルの van が登場するまでが長く退屈
  • カバーの能書きによれば、本作品のテーマは a tender tale of male friendship だそうで。つまり、いい中年男がおこちゃまの精神力で、最後は「責任を持って行動することは馬鹿馬鹿しいので、ゴミの分別をしないのは当然なだけでなく、粗大ゴミだって勝手に海に投げて捨てて OK」という結論で決め。痛快
  • 職がないのも貧しいのも、もともとは自分の無責任な態度に原因がかなりあるのに、そこんところは都合よく無視し、「こんな不憫な状況にあってもユーモアで乗り切っていくオレ」と自分で自分を誉めてあげる態度。アイルランドが舞台の話って、必ずこのパターンだよね
  • テーマからして気に入らないし、大して文章や表現に工夫があるわけでも、構成にキレがあるわけでもなく、いったいこの作品のどこが賞賛に値するのか
  • 低予算B級映画の台本には最適
  • 英語は平易だが、アイルランドの事情に疎いと解説なしに読むのはしんどいかも
  • ダブリンの街の汚さと人のガラの悪さについての描写は本書にあるとおり
  • 本書を楽しく読むための秘訣は「田舎者は心が温かいなんて、まともに信じてどうするんですか」とか「イギリス人やアイルランド人は他人に対する思いやりがない自分の態度を棚に上げるときにユーモアがどーのこーのと言い出す癖がありませんか」とか「人には『ユーモア』と称して失礼なこと言ったりしたりしておきながら、自分が同じようなことされると逆ギレするのは頭が悪いからなのでしょうか」などと決して考えないことです

■日本語訳

ヴァン
ロディ・ドイル著・実川元子訳