『蒼氓』1951年

蒼氓 (新潮文庫)

蒼氓 (新潮文庫)

  • これといった強力な主人公いないし、著者が特定の人物の肩を持っているような様子もなく、最初は変な感じだったが、読み終わったときの気持ちが爽快。
  • あえて言うと、好きな人が日本にいるままブラジルに移住していくお夏がゆる〜く物語の柱になっているようだ。このお夏って人はよくわからない。自分から男を好きになることがなくて、求められたら応じる従順さなんだってのはなんとなくわかるが、強姦(もどき?)の扱いをした男に心を寄せるとは。電波なのか、本当にそういうのが普通だった時代なのかがわからない。
  • 頭に虱が沸く話がグロい。不潔な人ってただでさえ苦手なのに、人に虫がウヨウヨ沸くなんて、耐えらません。昔には当たり前だった話だからしょうがないけど。
  • 日本人だって黒人を見下している。ブラジルの黒人についての描写を現代の感覚で読むと、何気ないふうにひどく失礼なことが書いてあって恥ずかしい。ただし、情報が乏しい状況ではこういう「本人が自覚できない非礼」ってよくあることだし、仕方のない面もある。だから、例えばイギリスで無知な人が黄色人種を見下しているからって、イギリス人の人種差別がけしからんと急に大問題に発展させてしまうのって、被害者妄想が強いと思うんですわ。無知から来る差別行為は馬鹿であることが罪な例に過ぎない。
  • この時代って、やたら言い訳垂れ流しの私小説が流行っていたそうだが(その筆頭が太宰治か)、そんな時代に第三者の視点でこういう作品を書けた石川先生は偉かった。