『砂の女』(1962年)

砂の女 (新潮文庫) 主人公の男の傲慢な態度に不快感をたまに持ったが、比喩の細かさ、日ごろ思ってはいても、やはり他人とはなかなかシェアできないようなことがズバリと書かれているところなどに引き込まれた。大真面目調で「悪臭と言っても、自分の足の臭いならいいにおい」という旨を語る様子もたまらない。物語としても素晴らしい。

これが西洋で受けた理由はわかる気がする。風刺がたっぷりあるし、濡れ場もある。舞台設定が田舎の海沿いの村で地味であっても、物語はエキサイティングだ。

Franz Kafka (カフカ)との類似性がよく言われるのもわかる。しかし、それ以上に、「男」が他人の馬鹿さ加減を見下し、威張った態度をとる割には、自分が相手の立場を理解して解決策を探ろうという傾向と対策のなさに、夏目漱石の『坊っちゃん』を思い出した。「お前が間違っているのだから、お前が俺の言うことを聞け」じゃ、相手が話を聞く耳を持たないのは当然でしょう。それに一生気づかないキャラ。