『文学部唯野教授』1990年 (岩波現代文庫 2001年)

文学部唯野教授 (岩波現代文庫―文芸) ISBN:4006020015

  • 「哲学」を「文芸批評論」に、「ミステリー」を「揶揄」に置き換え、ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』をう〜〜〜んと下品にした作品と考えて差し支えない。狂気と知性のきわどさがたまらない。私は筒井先生がよくおっしゃるところの「物語の主体が人間からモノに置き換わった時点で感情移入できなくなっちゃう人」のタイプです、はい。サイエンスフィクションにもあまり興味がないし、筒井先生の実験的な試みにはついていけない。でも筒井先生の狂気と饒舌の世界は愛してやまず、本作品はその下品さとホラの吹き加減が素晴らしい
  • よくアウトドア活動していて思うんだけど、西洋人には物理的なスリルを強く求める人口が比較的多い。ノルウェイフィヨルドにある絶壁とか、ニュージーランドの森に囲まれた深い渓谷とか見たらどうするか。私だったらそんな素晴らしい景色を目にしたら、自然の美しさを静かに味わいたいっちゅーか、自然の美しさの前にはどうしても謙虚になってしまうんだけど、なぜかそういうところに行くとパラシュートつけてジャンプとか、バンジ―ジャンプしないと気がすまないタイプがいる。私はそういうタイプを「田舎者」だとラベル貼りして軽蔑していないと言ったら鼻がピノキオになりそうだ
  • でも、文芸鑑賞になると、私自身がたちまちバンジ―ジャンプ愛好家系の読者になってしまうのだからしょうがない
  • この作品をよんで文芸批評のなんたるかが理解できた、なんちゅーことはほとんどなく、私はやはり自己チュ―型に突っ走ったナルシスト系読書感想文を読んでいたほうが楽しいし、私は書評でも論評でもなく「感想文」を書き続けるわけ。せいぜい斎藤美奈子が『読者は踊る』の「哲学ブームの底にあるのは知的大衆のスケベ根性だ」で述べているとおり、「現象学とか構造主義なら聞いたことがあります」なんてレベルでよしとしてんの。確かに私も『ソフィーの世界』を読んで哲学の基本を理解できたどころか、哲学を身近に感じることができたなんちゅーレベルにも達しなかった
  • こんなドタバタ劇のお話が保守的なイメージの岩波書店から出版されているのがさらに笑える。岩波書店、見直した